日本画家の平山郁夫さんは院展の開催を通じて島根県に縁があり、県内を歩いて作品を残した。代表的テーマは中国・シルクロードだが、その創作の旅は日中友好に大きな足跡を残している。
2006年、竹下登元首相の七回忌に合わせ、竹下氏の銅像除幕式に出席した平山さんを取材した。戦後の中国は外国による敦煌の文化財略奪に悩んでいた。そこで竹下氏が国際貢献事業として平山さんに文化財保護の大役を託し、二人三脚の旅が始まった。
中国側はホテルなど地方の受け入れ態勢が整わないと一度は断った。「竹下さんが『宿がなければテントでも、道がなければラクダに乗って』と覚悟を見せたので中国側が急いで応じた」。相手のメンツを立てる竹下流アジア外交だった。
1988年、2人は敦煌を訪問。翌89年、天安門事件が起き中国への渡航が禁止されたが、敦煌だけは交流が続いた。「たとえ国同士が戦闘状態になろうとも文化交流は絶やさないという竹下さんの考えだった」。
平山作品の原点は被爆体験といわれる。シルクロードを旅した玄奘三蔵に後遺症に苦しむ自らを重ね、平和への祈りを込めたと。その質問には「どの国でも文化は地方で育まれる。私の原点と呼べるのは故郷の記憶です」と答えた。ふるさと創生を唱えた竹下氏に心から共鳴した理由でもあった。平山さんの足跡をたどる作品展は島根県立美術館で10日まで。(裕)