きっかけは小学校の先生から聞いた話だった。「朝晩の食事はバナナ1本で、まともな食事は給食だけの児童がいる」。一人さみしくバナナを食べる姿が頭に浮かび「皆でご飯が食べられる場所を作らなきゃ」と思い立った▼安来市広瀬町出身の近藤博子さん(63)が経営していた東京都内の八百屋で、子どもに無料や低額で食事を提供する「子ども食堂」を始めたのが10年前。多くの共感を呼び、後に続く人が相次いだ▼だが、報道を通じ「子ども食堂=貧困」というイメージがつくられたことに違和感を抱いた。「困窮する子どもに限らず、若者や外国人、障害者や高齢者…。本来は誰が来てもいい場所なのに」。居場所づくりのつもりが子どもの貧困対策ばかり強調され、「子ども食堂」の名付け親は5年前の本紙取材に対し、抱える悩みを明かしていた▼手前みそになるが、山陰中央新報社は松江市殿町の本社近くに「子どもご縁食堂」を開設した。精神は近藤さんと同じ。誰もが立ち寄れる新たな居場所を提供し、多世代で交流してもらうのが狙い▼初日にのぞくと、親子連れ18人と、ボランティアスタッフとして手作りカレーを提供した新聞社の社員や地域住民の笑顔であふれていた。参加した同僚に聞くと「普段は難しい顔で仕事をする仲間の飛び切りの笑顔もあった。楽しみの一つになりそう」。居場所づくりの成果は社内にも表れていた。(健)